歯科治療用の素材として、かつては金、プラチナなど貴金属が多く用いられていました。日本ではそれらが高価なため、保険治療では代用として、パラジウム合金が今日でも多用されています。しかしパラジウムは健康上の問題があるとして、口腔内に使用を禁じている国もあります。10数年前から、世界の歯科界ではチタン製のインプラントを除いて、口腔内の修復に金属の使用を避けるという潮流になっております。電荷を帯びる金属は、口腔内の細菌の粒子を引き寄せることや、金属イオン化して溶け出し身体に吸収され、アレルギーなど健康上の問題を引きおこすこと、などの理由から歯科治療ではすっかり姿を消しました。日本でもパラジウム金属の価格高騰もあり、ようやく使われない方向になりつつありますが、代わりに登場したのは、セラミック粒子を練り込んだプラスチック製のブロックをCAD/CAMで削り出した白い歯です。プラスチックは仮歯の材料としてはいいですが、治療の最終修復の材料としては、甚だ疑問な材料と思われます。
世界的には約20年ほど前より、金属に代わる素材として各種セラミック素材の開発が盛んになり、次々と新製品が発売されました。それぞれ審美性、強度、製作方法などメリット、デメリットがあり、近年になり、ようやく評判の良いセラミック素材が、大別して2系統に収束されつつあります。一つは二ケイ酸リチウムに代表されるガラス系のセラミックで、もう一つはジルコニア系セラミックです。これらの選択に際しては、治療に応じて特性を生かした使い方をすることが重要となり、当クリニックでは治療前に精密検査を行うことで、咬み合わせなどお口の状態を予め詳細に把握しているため、治療にあたって最適な素材を選択することができます。
また下記の症例3のような、お口全体に及ぶ、咬み合わせの再構成治療を行う場合や、前歯の広範囲にわたる審美的な修復治療に際しては、プロビジョナルレストレーションと言って、あらかじめ精密な仮歯を製作して咬み合わせの経過を、数ヶ月間にわたり慎重に観たのち、最終的なセラミック製の歯を製作し完成する手法を取っております。
症例4
咬み合わせの不調と、お口全体の審美的な回復をご希望で来院されました。度重なる奥歯の治療により、咬み合わせの位置、高さが本来のポジションから偏移してしまい、ご本人もどこで咬んでいいのか分からない状態でした。歯のセンサーと咬む筋肉のフィードバック機構を調整する神経筋機構や、顎の動きの原点となる顎関節の働きにも悪影響が診られました。歯列矯正及び、古い金属製の補強芯を慎重に除去して、丁寧に神経再治療を行った後、プロビジョナルレストレーションにて正しい咬み合わせになるよう、咬合の再構成治療を行い、さらに十分な期間、経過を観察して異常がないか確かめたうえで、オールセラミックで修復いたしました。機能と審美性が完成され、以前とは全く別人のようとの感想をいただきました。